【読書のススメ】傷だらけになったとしても(すべて真夜中の恋人たち/川上未映子)
川上未映子さんのすべて真夜中の恋人たち。
何年か前、アメトークの読書芸人でオードリーの若林さんが紹介していたので、手に取ったのですが、とてもきれいな装丁でテンションが上がりました。
内向的な主人公の話なのですが、人見知りと自称されている若林さんだからこそ、何か共感した部分があったのかもしれないなと思って読み進めました。
この本全体を通して、主人公の生きづらさが感じられ、コンビニ人間を読んでいるときと似たような感覚になったのですが、読み進めていくうちに、主人公の人間臭い部分が出てきて、ほっとします。
急に人が変わったように明るくなったり、前向きになったりという劇的な変化はありませんが、聖や三束さんと交流する中で、静かだけど確かな感情が生まれ、血の通った人間になっていく過程が描かれています。
交友関係の乏しい主人公の世界は狭く限定的で、閉塞感を覚えるのですが、完全にそうならないのは、聖や三束さんの存在でした。
日々の生活の中で、傷ついたり、落ち込んだり、悩んだりするのには、必ず他者が介在します。でもそういう思いはもうこりごりだからと、他人を一切排除して生きていったところで何になるのだろう。
そこに待っているのは、無感動、無刺激の毎日です。
心穏やかに過ごしていきたいと一方で、無感動、無刺激ほど恐ろしいことはないと思うのです。
腹が立ったり、思い通りにいかなかったりと他人にやきもきしたりもするけれど、ひどい思いを繰り返した先に、自分の人生に彩を与えてくれるような人にふと出会えることもあるかもしれないよ、とこの本に教わった気がします。
物事は複雑で、すべてがハッピーエンドとはいかないけれど、そうだとしても、無感動、無刺激よりはまだ救いがあると思わせてくれました。
又吉さんの人間や吉本ばななさんのバッドエンドの思い出など、最近読んだ本から教えてもらったのは、やっぱり、みんな、総じて、生きづらいと思いながら生きているんじゃないかということです。
自分の思い通りの人生を生きている人もいるのかもしれないけれど、本を開くと、自分のように七転八倒している人がいて、なんだか安心するのです。
仕事や恋愛で傷だらけになったとしても、それでも、無感動、無刺激ではないのだから、まだまだ大丈夫だと自信をもって進んでいきたいと思えました。