【読書のススメ】不器用な人達への溢れんばかりの愛情(火花/又吉直樹)
今更ながら、火花を読みました。
芥川賞受賞したことはあまりにも有名で、今頃読んでるのなんて時差ありまくりですが、とても素晴らしかったです。
読むことができて本当に良かったです。
第2図書係補佐を読んでからピース又吉さんの本を読みまくってるのですが、人となりが火花に表れていると感じました。
心に残ったのは尊敬する神谷の彼女。
火花はお笑い芸人が主人公のせいか、登場人物もほとんどが男性です。
普段女性作家の本を読むことが多く、女性視点で見た心象風景や、女性ならではの人間関係はいろんな本を通して見てきましたし、自分でも体感してきました。
そのせいか、男性作家の視点で描かれる男同士の先輩同期後輩の関係性や主人公の気持ちの描写が新鮮であり、羨ましくもありました。
尊敬する神谷の彼女の真樹。
火花を読み終えてから1週間経つのですが、時間が経つほどに真樹の輪郭がくっきりと浮かび上がってくるような感覚さえするのです。
登場人物が男性ばかりの中で、紅一点の真樹は献身的で優しく美しく、温かい光を放っているように感じました。
男性目線で描かれているからかもしれないですが、女性の理想の姿が投影されているようで、神々しさすら感じてしまうほど。
だからこそ、真樹と神谷の別れのシーンがあまりにも辛すぎました。そんな別れのシーンがより一層、真樹の美しさと優しさを際立たせているようでした。
それからスパークス解散の漫才には涙が出ました。
コンビってどういう感覚なのか素人の私にはあまりピンとこないのですが、仕事仲間であり、友達であり、同士でもある人と別れるというのはどんな感覚なんだろう。
漫才をテレビできちんと見たことはほとんどないけど、こんなに漫才で泣かされるとは思いませんでした。
目の前で漫才をしているような臨場感を味わうことができました。
第2図書係補佐といい、火花といい、なぜ又吉さんの本にこんなに心惹かれるのかと考えてみたところ、作家の中村文則さんとの対談にその答えがありました。
人生はしんどいものだと思ってる。
という言葉です。
うまく言葉にできずにいましたが、私も自分の中の感覚でそう思ってきました。
一生懸命やってるはずなのに、どうして思うようにいかないのだろうと。
その答えも近畿大学の祝辞で又吉さんが言ってました。
社会に出ると思いがけないことがたくさん起こる。
仕事に対しても人間関係に対しても、真摯に向き合っているにも関わらずいじわるなことを言ってくる人も確実にいる。
排水溝を見つめてるだけの時間というのもそういうのもみなさんにも必ずくると思う。
それを是非とも乗り越えて行っていただきたいと思う。
嫌なこととかしんどいこと夜が続くときは次にいいことがあるためのフリだと思うようにしてる。
しんどいことがあったらそのあとかならず楽しさが倍増するような面白いこと、楽しいことがあるんだって信じるようにしてる。
辛い思いや苦しい思いをしたことがある人、不器用に生きてきた人を私はどこか信頼しています。
器用にカッコよく生きてる人は羨ましいけど、その人の考えてることはおそらく理解できないし、共感出来ないのです。
上手に世渡りしたり、上手いことそつなくなんでもこなしていきたいけど、出来なくて、うまくいかなくて、落ち込んで、もがきながら生きてる人こそ、信頼できるのです。
とても人間っぽくて、その人らしくって。
私も不器用に生きてるからこそ、同士を見つけた気がするのかもしれないです。
火花には不器用に、でも懸命に生きてる人があふれています。
その不器用な人達が渾身の愛情で書かれている至極の一冊です。
不器用な私に、そのままでいいんだ、と言ってもらえているような気さえします。
折に触れて読み返そうと思います。